2018年09月20日

忌まわしい過去を断ち、相手との境界線(ボーダー)を作るためのひと夏 〜島本理生「夏の裁断」〜


手に取った「夏の裁断」。
感じたのはその薄さ。
でも中身は濃かった。

この本を「理解できない」
「共感できない」と言える人は
ある意味幸せだろう。
主人公・萱野千紘(かやのちひろ)
は幼い頃に男性に性的いたずらを
され、男性に強く言われるとNOと
言えなくなってしまう弱さがある。
(本人は「弱さ」と表現している
ことが多いが、「後遺症」でもある)


小説家である主人公が、
編集者の「柴田」と出会って
柴田に精神的にもてあそばれてしまう。
(「肉体的に」ではなくあくまで「精神的に」)
柴田のような人間は、探せば実はそこそこいる。
この辺はよくわからないが、
もしかしたら「サイコパス」というものに
該当するのかもしれない。
言葉で相手を操るような人間。
心を強くしていないと、こういう人間に
操られてしまうから気を付けないといけない。

「俺たち、友達じゃん」
と言って相手を離れないようにしたり、
「お前に紹介したい人がいるんだ」
といかにも大切な会と見せかけて、
実は単に人数集めだったり。
その言葉を信じてしまうと、
長年相手にいいように使われて
しまうなど。
私の周りにこういう人がいて、
ずっと違和感を感じていたけれど
彼氏の友人だったり、周りから絶対的
信頼を得ていたので大きな声で
それを指摘することができなかった。

15年ほど経って、
その男の行動がとうとう犯罪スレスレ
のものになった頃、周りが男の本性に
気付きだし、男は業界から立ち去らなければ
ならないほどになってしまった、
ということをつい思い出してしまった。


一方、作品内の柴田はというと
好きそうな素振りを見せるくせに
千紘が近づくと拒絶、また近づいてきては
拒絶を繰り返す。
いきなり股間に千紘の顔を押し付ける下りは
かなり驚いたけれども。
そうやって「支配」や「自分のストレス発散のための
遊び」として吹っ掛けてくる男性もいるから
気を付けなければいけない。

最近は児童館にも「ちゃお」バックナンバーが
ずらっと揃っているくらいで。
女の子は幼少期からいわゆる少女漫画に
触れる機会も多いと思うが、
例えば「嫌いなはずなのにどうしてこんなに
ドキドキするの?!」とか
こんなセリフがある。
こういうのを小さい頃から読んでいて、
一種の勘違いをしちゃう子もいるんじゃない
かなぁなどと思う。



小説家なのに、亡くなった父の所蔵本を
裁断機でバッサバッサと裁断してゆく
千紘。
物書きなら簡単にできるはずないのに。
ここでもNOと言えない弱さが出ていると思う。
でも同時に、無理やりにでもこの行為を行う
ことによって、「嫌な人との関係を断ち切る」
という行為を覚えたともいえる。


ラストで
「じきにたくさんの怖かった男の人たちの
年齢を追い越していく。」
という文章に凄く共感した。
私自身、学生服を着た集団の男の子がなぜか
怖かった。もっといえば、小学生の集団にも
少しドキッとする自分がいた。
とうに自分より年下なのに。
「とっくに自分より年下じゃん」
と何度も言い聞かせて最近は
平気になってきたが。


「縛られるものなどもう何もない」
のに、パブロフの犬のように
その連鎖から抜け出せないのは
傍から見たら不思議かもしれないけれど、
本人はとても苦しんでいる。
年齢を超えて、千紘と同じような
立場の人、それにさえ気づいてない人、
多くの人にこの本が届くといい、
そして目に見えない「縛れているもの」
から解き放たれるきっかけになる
といいと思った、そんな作品だった。



4163903240




  • 単行本:125ページ
  • 出版社:文藝春秋 (2015/8/1)
  • 言語:日本語
  • ISBN-10:4163903240
  • ISBN-13:978-4163903248
  • 発売日:2015/8/1


posted by ライターam at 19:33| 東京 ☁| Comment(0) | 本 感想 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前:

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント:

認証コード: [必須入力]


※画像の中の文字を半角で入力してください。